一度や二度の悲しみじゃなくて

だいたい野澤と真田の話をしています

ディスを笑いにすることへのいちオタクが思うこと


ほぼそのときのツイートの焼き直しなんだけど、自分が読みやすいように留めておきたいので最近とてもうれしかったことを書きます。

 

P1703
森田 ナガツはさなぴーのちょい悪エピソード、何かないの?
長妻 真田くんはね、すぐ肩を組む。
真田 それ、よくねーか?
安井 なに、臭いの?
真田 これですよ、最近気づいたやっさんの悪いところ! 笑いをとにかく生みたがりで、それはすごいことだと思う。でも人をたまにディスることがあって、その確率が高いのがオレなの!!


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私は本当に、見える場で本人が本人に言ってくれたことがすごくうれしかったわけです。
たまにかな、と首をひねるのは私の主観だろうし、会話を切り取って取り上げること自体が印象操作のひとつになることは否めないけれども、これを見た途端本屋で泣きそうになった。私が今の環境を好きになれない一因がここにあって、それを真田自身が指摘してくれてい(るように見えた)たから。
これだから私はらぶが好きになれなかったし、それは別に真田が標的だからじゃなくてもそうだったろうし、例え真田が加担する形でもそんなグループだったらほんとにいやだったと思う。

 

安井 でも実際は臭くないじゃん。
真田 じゃあなんで言ったの!
安井 おもしろいかなって(笑)。でも、さなぴーがイヤだったらオレやめるよ。
真田 …すいません。いじってもらっていいっすか?
一同 あははははは!


話の流れ的に最後はいじりを求める方向に帰結してるし、まぁ本当に深刻にいやだとキレることはない、コミュニケーションとして許容できる部分もできたのは確かだろうしそういうコミュニケーションが成り立つ仲もありはするんだろうけど(実際この会話の前の、安井さんにドヤってギター教えてる真田めんどくさいな!)、とにかく見えるところで本人が本人に言ってくれたことがうれしい。

 

TVnavi smile '16 vol.21
萩谷 当時(JUMPバックについていた頃)はオレが一方的に質問してた感じだったけど(笑)。それでも他のJr.に比べたら話してた方だよ。当時のさなぴー、後輩に心を開いてなかったもん。
真田 あ〜、そうかもしれない。
萩谷 そういう雰囲気があったから『真田くん怖い』って思ってた子、多かったんだよ。そのたびオレは「いい人だよ、オレは知ってる」って修正してたの(笑)。
---
萩谷 そのあたり(『オーシャンズ11』の頃)からさなぴー自身も変わったよね。
真田 うん。別人になったって言われるくらい変化した。自覚もある。
萩谷 それまでは誰かが突っ込んだりイジろうものなら怒ってたのに、いまや求めるようになった(笑)。
真田 いや、求めてはいないんだけどね(笑)。
萩谷 いやいや、絶対に求めてるって。「さなじー」って言われるとおいしいと思ってるでしょ(笑)?
真田 おいしいっていうか、悪い気はしないなって(笑)。たぶん考え方が変わったからだと思う。もともと考え込むタイプで、自分を追い込んで追い込んで、ピリついてた部分があったんだよね。でもそれをやめて、なるようになるさって思ったらこんな風に(笑)。
萩谷 今のさなぴーもいいと思うよ。オレは好き。
真田 自分も楽になった。

M1612
諸星 →さなぴー/最初はめちゃくちゃ先輩だと思ってたけど、今ではディスり合う仲。「ブサイクだな〜」、「おまえに言われたくね〜よ」って(笑)。


こうして見ると真田自身の態度の軟化は確実にあるし、まぁおじいちゃんキャラとはみすのの頃から言われてたことあるし、軽口を叩き合えるというのは友人環境のひとつとしてあるものだし、常に「今日も超かっこいいね!」「その服を選ぶ君こそハイセンスだよ!」みたいに言い合ってても確かにいやまぁなんぞwwwってなるけどもwww
安井さんとは仕事のことを語り合ったりもしているようなので、入所歴の差も明確だった昔はどうあれ今は関係が築けているんだろうなぁとは思うんだけども(絶対誤解してほしくないけど、後輩が偉ぶるなという話は全くしてない)、それとこれとは別だ。とにかく私が、ディスり芸が好きになれないという話。


もう一度この部分。

安井 でも実際は臭くないじゃん。
真田 じゃあなんで言ったの!
安井 おもしろいかなって(笑)。

買って持ち帰って延々眺めてうれしさを噛み締めて、そうして言葉を噛み砕いていたんだけれども、
「でも実際は臭くないじゃん」
という返しには実は看過できない、肝が隠れているような気がする。
そこに隠れてるのは、「心当たりがないなら傷付く必要ないじゃん」っていうことなんじゃないだろうか。冗談で言ってるんだから傷付く必要ないしギャグでしょって。そら実際冗談に対してマジレスする方が興醒めみたいな場面もあるけど、それを、言葉を発してる方が言うのは違うんじゃないか?って思ってしまう。
心当たりがなくても人に言われることで、そうなのかな、気付いてないことがもっとダメなのかな、って気に病むばっかりになったりすることだってありえる。ディスりを常態化するってことは行きすぎれば不当な自己評価の植え付けになる。たぶんだからいやだったんだ、というところまで行き着いた。
別に現実の彼らの仲はそこまで深刻な話じゃなく普通に仲が良かろうと、そうだとしてそもそもそんな冗談の通じないひ弱メンタルお呼びじゃないわって言われようと、私は私の好きな子が無用に傷を付け得ない世界の方がほしい。

 

同じ流れで言うとひいては自虐に繋がるのもすごく悲しい。

 

M1612
真田 →顕嵐/くやしいくらいあこがれのイケメン! 俺の顔も15回くらいなぐったら、何かのまちがいでこんな顔にならないかな(笑)。

 

お前ね?!お前そのジムとかキックボクシングとかもう4年くらい続けて尚のこと鍛え込んだ腕で15回も殴ったらね?!どうなるか分かるでしょ?!!?!顔変わるの意味違ってくるから!!!っていうマジレスは置いといてもw、別に顔ファンでやっているわけでもないけど、それでも自分の好きな人が「自分の顔なぐったら変わるかな」とか言ってるの聞いて楽しくはならない。私冗談分からない。なんだったら、「そういうこと考えるんなら、例えば自分の周りにいた人に対して『こいつなぐったらもうちょっといい顔になるのになー』とか思ったりしたことある?」などというものすごい無駄な悲しみが過ぎったりまでする。


まぁここまで書くとあなたが過敏なだけでしょ、本人たちは冗談だってわかってるしネタとして笑うところじゃん、言いがかりつけないでよって思う方もいるというのは分かる。そういう方は安井真田推しブログとか書いてプレゼンしていただけたらと思う。読みます。
ただ私は (安∀井)おもしろいかなって(笑) って言われても端的に言って「おもしろくねぇから💢」で終わる。おもしろいかな、の根拠が客受け想定なのか根っから思ってるのかは分かんないんだけど。

ディスり芸、ってたぶんどこかしらで散見されるものだと思うけど、やる側はどこかで、立ち止まって考えてくれたらなぁと思っています。

 

 

 


余談1
しかしいじりも愛、は対極「褒められてるのに悲しみがある」で結局どちらもよろしくないなとのんさな厨はふと思っている…。

 

P0806
野澤「オレから見た真田くんは、やっぱり演技の人ってイメージがあるな。ドラマで涙を流しながら演技してる姿とか見ると、すごいな~、うまいな~って思うよ」(略)
真田「ちなみに野澤は、この3人の中で唯一の足の長いキャラってことでお願いします(笑)」

3人とはあとえびに入る前のはっしーです。

W1207
【相方のスゴイところ】スタイル。オレがどんどんチビに見えてくるもん(笑)。マジでうらやましすぎるんだけど。背の高さも細さも。完ペキだよ。今回、ソロをやったじゃん?で、うしろから見ててわかった。やっぱりスタイルがいいとすごくステージ映えするんだな~って。

TVfanCROSS1208
真田 外見的なところから、身長が高い。
野澤 それ聞き飽きた!

 

たぶん拾えばもっとあるんだけど、野澤さんのよいところを、と言われるとほぼスタイルのことしか挙げないことに定評のある真田。
なんなら

W0912
周りの人から「スタイルいいね」って言われることがあるけど、自分の体型は全然好きじゃない。オレがルックス的に憧れてるのは、(森田)剛くんとか屋良くんなの。ね、違うでしょ(笑)。

とまで昔言ったことのあった野澤さんに対して、そこに現状を肯定する意味があったのかなんてことは分からないけれども、聞き飽きた!とまでもう言われてるのに、

131106放送少クラの楽屋訪問・10秒でお互いのよいところを3つずつ褒め合おう!
( サ∀ナ)スタイルがいい (のωん )演技がうまい
( サ∀ナ)顔小さい (のωん )なんやかんやっ、当てになる!
( サ∀ナ)よく食べる (のωん )お前のことが好きだ!(抱きつく)

 

それ1つめと2つめほぼ同義だからね?!?!!野澤さんも延々数年それ繰り返されて尚ずっと真田のこと好きでいられるのすごいよ?!?!!ってなる。
実際らぶつんになってから、真田が周りの人に対して褒める言葉をストレートに表に出すようになっていて時々悲しみがある。野澤さんにはそんな風に言ってくれなかったじゃん!!!ってなってる。よく。

 

 

 余談2

W1108

野澤 ひとりで突っ走ってそうに見えるけど、実はちゃんとみんなのこと考えてるんだよね。不器用なみんなのこと思いなの。今回のインタビューでもオレのことあんまりいいふうに言ってないでしょ?それ、いつもだから(笑)。表現するのが苦手なんだよ。不器用だけどいい人なんだよ、真田って。

 

何度か言ってるけど、私が真田の隣には野澤さんがいてほしいと思ってしまうのは、別にイエスマンがほしいというわけではなくて、真田の姿勢を肯定してくれるからで。それこそ後輩に怖いと思われてた、頑なであった真田を理解してくれる野澤さんが常に傍らにい(て且つ本当にほぼふたりぼっちだっ)たことが却って真田を囲ってしまっていたのだとしたらなんとも言い様がないし、その頑なさが是正なり軟化されるべきものだったろうというのは、本人も今楽になったというだけあってそうなんだろうと思うんだけど、それでも今一緒にいる人の側にはずっと置いておきたくないなぁと思う。アイディアを数出すことについて、実際実現可能なものを言いなよなどの非難はあろうし数出すことが偉いってわけでもないけど、「簡単に言うと、ちょっと頭おかしい(笑)」って言葉選びでまとめられたり(W1605)*1、舞台後の演技指導もね、さなぴー熱いから(笑)みたいに言われても腑に落ちない。

何度も言ってるけど、「本人たちの間では問題ない言動だ」と説かれてもそれは考え方の違いなのでしょうがないです。本人がオタクひとりひとりに自分の真意を表明してくれるならともかく、問題があるもないも全部オタク側の推測解釈一つでしかないし、なんなら表明にだって解釈違いは生まれるものだろうから、私とあなたは平行線です。もし何かあるならハッピーな安井真田推しブログ書いてくれ。私もハッピーになる。


まぁ上の余談と表裏で、ふたりぼっちだった人たちには、人間関係を分散できない面(面と向かって言うのが(あるいは言ってたとして表に出すのが)気まずい的な)と、互いについての言及が多くならざるをえない面とがあるとは思うので、真田が野澤さんをほとんど褒めてくれなかったのも、野澤さんが真田について多くのことを言ってくれたのも、環境に一因があるのかなぁなどとは、思うこともあるんですけどね。

 

 

 

最近のんさなに重ねて泣いたユーリ!!!インタビュー。

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認めてくれる、大事。

*1:真田「アイデアを出す回数は、俺がいちばんだと思うよ。俺ちょっとぶっ飛んでるところがあって、今までは何か提案しても『ダメ』って言われることが多かったんだ。このメンバーも最初はボロクソに言うんだけど、うまく形になるように練ってくれる。それがうれしい」

安井「つねに考えてる人。週3回くらいこれどう?ってアイデアを出してくる。大人・しっかり者・安定感みたいなイメージがあると思うんだけど、けっこうポンコツ(笑)。日本語ヘタだし、フリも全然覚えられない。一生懸命なんだけど、抜けてるところがあるの。そこが愛おしくてしかたない」M1606

こういう言い方もしてくれるし、真田自身がうれしい、と言うこともあるんだから、ほんとこちらの文句の付け方が言葉狩りだなぁとも思うには思うのですが。

feel, no care to be powered

彼の足元には火の穂が揺らめいている。
ただそこにあるだけで、その熱は明かりを撒き粉を散らす。遠くの彼を見る度にまるでぱちりと爆ぜ続けるような音がして、僕は目を逸らすことができなかった。


それは、自分の身を焦がしてしまうことはないのだろうか。見つめ続けて思っていた。
はたにいてさえ熱量は肌を撫ぜた。時折耐えきれず目を細める。それでも彼から距離を取った後も尚、自分の胸が醒めなかったことさえ僕にはあった。彼の熱と僕とは親和性が高いのかもしれなかった。そのことを差し引いてまだ、彼への羨望と、憧憬とが混濁と入り混じった気持ちは、僕の身にも熱を点す。風がその熱を煽る。
どうして。どうしてこんなにも。
追いたいと思った。彼の辿る道を。彼の行く先を。
そうずっと、思っていたのだ。

 

 


そうして僕と彼とに、巡り合う時機があった。
風が止んだからか、熱は穏やかさを内包し、その人の身に纏っていた。制御できうる力のように。それは今は使われずとも、背後にある器の大きさを僕に示し続けていた。
やっと、触れることができる。はたで見ていることしか叶わなかった僕は、うれしくてたまらなかった。ようやくこの人と、居並ぶことができる。それだけの時を、立ち続けられたこともが誇りだった。ねぇ、これからどうしよう。どんなことをしていこう。話したいことが山ほどあった。僕はこの人の手を取りたかった。この人の、熱のかたまりのような手をとって、共に。
触れる。
思っていた以上に柔らかな手指だと、そう感じるよりも先に、胸がどくんと跳ねていた。

指を覆い重ねた自分の肌に落ちたのは、彼の涙だった。
驚いて彼の顔を見て、この人を真正面から見られたのは今までになかったのだということにさえ初めて気が付いた。目は自分の熱量が水分を溶かすように潤む。
この人は、火の穂の中心で水を湛え立っていた。
あれだけ問いかけたい言葉があったのに形を成さない。それはこの人もまるで同じようで、はくりと口を開いては声を出すことが耐え難いようにただ息だけを吐き出した。まるで、声にしたら決壊してしまうとでもいうように。その合間にもはたりと落ちていく涙は、穂に触れた途端にジッと音を立てた。
「どうして、…どうしてそんなに苦しそうな顔をするの」
「こわい」
「…なにが」
「火の穂は人を遠ざける。それでも歩いてきた。ずっと、ずっと、走るように、風に乗るように、だけど、こわい。いつかこの火が絶えたら?壁となるこの火が、ほんとうは絶えるべきものだったら?こわい、ひとりになることも、だけどこの火が絶えることも、僕は、こわくて、だけど、」

溶け出すように堰を切る。少し、血が上った。どうして、あなたは、
「どうしてあなたは目の前の僕を見ないの。こうしてこの手を、熱を焦がれてやまないものを掴んでいるのを見ないの」
叫んだ。なにが人を遠ざけるだ。自分がそう思い込んで、そういう生き方しかできないと思って、人に依ることをしなかったんじゃないか。誰も彼もが熱を疎むのではない。眩しさを直視できない奴らの所業だ。そうでなきゃ、そうでなきゃ、
「どうしてこんなにあなたに焦がれる人間が生まれると思うの…!」
ぐずりと僕こそが泣きじゃくりながら声を上げ続けた。互いの落とす粒がジッ、ジッと火の穂に吸われていく。水分を追うように穂は舞って、絶えず形を変え揺らめき続けた。
「あなたの火の穂は、こうして幾粒もの涙を吸ってきた。だのにこうして絶えない。飲み込んで強さを増してきたんだ。そうして歩いてきたんだ。だからこそ、ねぇ、あなたの後ろを見てよ」
呆然と僕の言葉を受けていた彼が、まばたきを幾度も繰り返し、その度にぱたぱたと涙を落としながら、振り返る。
そこには、彼がこれまで灯してきた火の穂がずっと、ずっとこの足元まで続いていた。
「消えないんだ。消えてないんだ。あなたの歩いてきた道も、これから行く先にある道も、火は消えない。あなたの火が消えるわけがない」
これまでを諦めるように後ろを見ようとしなかったから気付かなかったんでしょう。信じられなかったんでしょう。こわいと言うなら、僕が手をとったままその火の強さを指し示す。
「あなたが、強くないわけがない」
もう一度、震えるようにこちらを見返した彼を見据える。
へらりと、泣き笑いの顔になった彼は、手をふわりと握り返しながら、僕にこう言った。
「君は、雷みたいな人だなあ」

 

 

彼の足元には火の穂が揺らめいている。
まだ風は止んだままだ。かつては傍らにあったそれが、いつ隣に来てくれるとも、それは知れないことだった。
だから僕が。彼の手をとり隣に歩く。
安心してよ。僕の雷とあなたの火の穂は相性がいい。そう言うと彼はただ笑って、うんと頷いてくれた。

 

 

 

 

 

真田佑馬さん、入所13周年おめでとうございます。

夜の最中の寓話


控えめに響いたノックの音は同居人のそれではないだろうと思い込んだのが原因だった。後輩のどちらかだ、そう考えたのは半分当たり半分外れる。扉の前にいたのは気まずい顔をしたタケとウタ、それからその真ん中で両腕を捕らわれたーー否、寝顔をさらして担がれた、奴だった。



「すみません、俺らが今日の稽古のところもうちょっと、って話しかけたら勢いづいちゃって」
勢いがついたのにこうも満足げに眠っているとはこれいかに、なんて深く考えなくても分かる。
「まず話しかけられることでそもそもテンション上がるし普段から芝居のことしか考えてないから喋りだしたらとどまりないしとりとめもないし、ただでさえ今日体力使ってたのに疲れに気付かないで気持ちだけわぁーーってなるから、で、ちょっと目を離した隙に倒れてただろ」
「…さすがタスクくん、見てきたみたいに話すんッスよね。それね」
俺が一息で返した言葉にウタが微妙にひきつった笑いをする。それは、タケとの微妙な身長差のせいで、支えたこいつの重さが僅かばかりにでも多めにかかっていそうなせいかもしれなかったが。

先達たちであればここで放り捨てて俺に正面から預けさせるところだったろうが(意識のある俺にばかりいたたまれなさが残るやり方なのでやめてほしい)、できた後輩たちは目線で少し伺いを立てた後に、部屋の中への連行を再開した。
「あの、どっちすか寝床」
拾ってもらったここで暮らす以上、基本はどこも相部屋だ。それはタケとウタの場合もそうだし、例外と言えば最年長のヒカリくんくらいだ。率先して声を上げたタケに奥、転がしといていいから、と指し示すとしゃがみこんだときにバランスを崩したのか3人で布団に顔から突っ込んだ。誰も手をつけない状態だったのだから仕方ない。バスンと音がする。途端に面白くなったのかけたけたと笑いながら腕と布団とから抜け出した2人に対して、結局放り投げるのと大差ない形で投げ出されたにも関わらず、こいつは相変わらず平和な寝息を立てていた。
「あぁー、あぁーやべ。超ウケる。この人まだ寝てるし」
衝撃や声程度ではそう起きないだろう。朝だって人にアラームをかけさせておいてちっとも起きやしない。
…こいつの場合、睡眠が何よりのリカバリーと、リセットであることを理解しているものだから、許さざるを得ないと信奉している、自分の質が悪いのだけど。絶対直では言うもんか。

…けれど。


あーあ、と立ち上がって横をすり抜けた彼らを呼び止める。
「あ、夜にすいませんでした。そのまま俺らの部屋で寝せといてもいいかなーって、ちょっと思ったんですけど」
「あ、いや、むしろわり、寝てる人間運ぶの大変だったろ、で、いや、そのそれと」
却って先に謝りを立てる彼らに少し舌の回りがもたついた。
それは、
「あのさ、ひっくり返しといてくれる?そいつ」
後ろ手に指を差した。不思議そうな顔をされるから続ける。
「こいつさぁ、窓の方見て寝ないと落ち着かないっていうんだよ、いつも、…だからさ」

さっきうつ伏せで倒れ込んだところを肩なり足なり掴んで整えられたその体は、こちら側を向いた状態だった。
ーー…正直な話。この配置で、俺を視界に入れずにいようとする結果が、その癖を生み出しているのだろうと思っていたのだ。口に出す試しは、なかったけれど。
それこそ口元がひきつりはしなかっただろうか。そもそも少し目を伏せがちだった。どれだけよっぽど俺の表情の方が雄弁なことだろう、と改めて苦笑いが沸きそうになったところで、返事の間が空いた2人にはてなが浮かんでようやく顔を上げる。2人は俺と目が合ったあと互いに顔を見合わせて、ーーパッと同時にこちらを見て言った。

「よくないスか?もう完全に寝落ちてるんだし」
「は」
「そうすよ、だいちさっき俺たちのとこで意識落ちたときも、窓の位置とか関係なかったしこの人」
いやそれは、俺との場面じゃないからじゃないのか、そう言ってやりたかったがその前に、2人はもう一度軽やかに扉を開ける。

「さっきも言ったじゃないすか。ーータスクくん、案外分かりやすいですよ」

タケがにやりと笑ってひらりと身を返す。後ろに続いたウタがやっぱりにやにや笑って、そっちの人もね、と部屋の奥を指差して消えていった。残されたのは俺と、寝息だ。



…なんだよ。なんなんだ。
なんだかくたびれた。もう俺も寝てしまおう。電気を落とした。
暗がりに慣れなくとも、この部屋の距離感には慣れている。近い自分の布団に潜り込んで向こうを眺めたところで、大してものも見えやしない。

ーーそれでも。いつか近くなるのだろうか。欲しくてやまないその視界に、俺を認めてくれるのだろうか。
そうなら、どんなにか。


ふとせがむ思いでにじるように畳を這わせた腕の先が、何かに触れた。
「うわ、」
途端にびくついて上がった声で分かる。こちらの肩が跳ねる。


指だった。

意識していなければこんなところにまで、伸ばされやしない、ましてや今みたいな声なんて起きて、…起きていなければ。


バタリと勢いよく寝返りを打った。俺は扉の方を睨み付けながら必死に意識を飛ばそうとする。いつ目を覚ましたんだこのたぬきやろう、この隣に固執しているのは俺だけじゃないんだなんて、僅かでも錯覚ならさせないで、もっとスポットライトの下で認めろ、この、この

ののしり言葉を解き出そうと思ったのに叶わない。
何か向こうからの足掛かりがあるそのことが、俺は、うれしくてたまらなかったのだ。



夜の最中、この意図せずして訪れたもらいものを抱えていては、俺はもう確かに、背中を向けるしか堪えようがなかった。

我が人よ 真幸くあれと 二十四度

今年の真田出演舞台2本は、共に赤ん坊の泣き声から幕を開けた。『コインロッカー・ベイビーズ』に関しては既にまとめているので暇のあるときに読んでもらえればいいと思うが、ところで今日は、真田の誕生日である。
1992年生まれ。今年24という年男の彼を思えば19の頃から追いかけているのだから気付けば早いものだ。そうは言っても彼が事務所に入ったのは11歳のときなので、全然誇れるような長さの担当歴でもないのだけれど。

 

『ダニー・ボーイズ〜いつも笑顔で歌を〜』という舞台は、脚本上の粗を探すとキリがないような部分も確かにあったのだけれど*1、それでも心の動いた良い舞台だった。

サチオの生涯は1990年に幕を閉じる。自由な空を飛び続けた彼は自らの飛行機の事故で亡くなるのだ。直接その瞬間が描かれたわけではない。それでも、自担が死ぬというものを見せられるのはこんなにもつらいのだとは思ってもみなかった。例えば今までの彼の役柄の経歴から言って、こうなんか、罪を罰せられて死ぬとか、狂気で逸して死んでしまうとかならありそうだったかなぁとは思うのだけど、いやまぁそれはそれでたぶんつらいのだけど、だがここで感じたつらさは、それはおそらく、「周囲に夢だけを与えて先に逝ってしまう」ことに原因がある。まるで、人のために生きるのが自分の使命なのだと微笑んでいる人が、追い縋ってもここにいてくれないような。どうして自分の幸せを追ってくれないの。

 

 読み込みはまだ浅いんですけどね、と注釈するが、じゅうぶん、真田は役へとのめり込みつつある。物語の後半にはめちゃくちゃ重要なセリフを見つけたようで、「なに、これ、すごく重い2行!……があるんですよ」

 事前に舞台誌のインタビューでこう言っていたのもあってその『2行』に気を留めていたのだが、それはまさに死後の(と思われる)彼が、「あのね、」とあまりにも優しい、泣きたくなるほどやわらかな声で語りかけ始めるその言葉だと私には思えた。

 「僕たちは自由だから。生きているだけでいいなんて、そんなのは夢じゃない。自分が何をして生きたいか。それが夢だよ」

 

初見時、なんでこの人はこんなにも、自分を追い詰めるような言葉を口にするんだろうと思った。ただ漫然と生きているだけではダメなんだと。自分の道を決めて、追って、飛び続けようとしない人生に価値はない、そんな風に自分を責め立てているんじゃないかとつらくなった。

それは常々、この人に漂う自分への厳しさを思っているからだ。いつも仕事のことを考えていて、立ち位置に、技術に、行く先に悩んでいて、自分を許そうとしない。そういう生き方の人だから、サチオとして死んでしまう姿を見て、「そんなに背負わなくていいよ、ただ幸せに生きていてよ」という気持ちと、「そもそもこの人の思う幸せを私なんかが規定できやしないんだ。彼がそう安穏とした道に価値がないと感じてもがくのならその後ろ姿を見守るしかない」という気持ちとが同時に立ち昇って泣くしかなかった。

何年か前にとっつーの連載で、イノッチが真田にかけた言葉が引かれたことがある。

「お前が21歳まで生きてこられたことに感謝してる人がこの世界に最低二人はいるんだから。お父さんとお母さんはお前が生きてるってことだけで幸せだと思うよ」

読んだ当時は、こんな言葉をかけられるなんてどれだけ思い悩んでるんだよなどと草を生やす程度には気軽に見ていたのだけれど、いざ死なれると本当にもう生きているだけでいい。それだけを本当に切実に思ってしまった。

 

そもそもラッキーマン、と称されつつ、サチオに対する考察はほのかに悲しさがある。

いつも前向きで、幸せそうに歌っていると見えるかもしれないけど、幸男は脳天気な男じゃない。(略)"僕はラッキーだから"というセリフが何度が出てくるんですが、すごく気になったんです。それって逆に、ラッキーになりたい自己暗示じゃないか。みんなに"幸男はラッキーマンだから"と言われるプレッシャーじゃないか、と。そういうところを掘り下げていくことで、幸男の深い人間性が見えてくると思うんです。

人には何かしら崇拝するものがあるとして、幸男にとってはそれは歌。歌を崇拝することは彼を救うけど、現実問題としての彼は救われていないかもしれない。だからこそ彼は歌いたいんです。

幸男だって認められたくて一生懸命だったんだって、歌えばみんなが寄ってきてくれるから歌うんだって、表には出てこない本音を伝えられる演技をしたいと思います。

 二段目の解釈は難しいのだけれど、要は「この先には希望がある」と縋にすること、なのではないだろうか。歌っていれば、このステージにいれば、僕は幸せになれると信じて立っていくことで手一杯なのだと。信じていなければ、やっていけやしないのだと。

こう言葉が出るからには、それを引きずり出すだけの感情がどこかで自分の中にもある。そういうことなのだと思っていた。

 

それがある朝、唐突に、あの『2行』への異なる解釈が瞬いた。

冒頭、戦争を経験したツネは言う。
「夢、…ですか。寝てるときに見る夢じゃない、夢。
――死なないこと。生きて、いけること。
全部まとめて、…運が、いいこと」
それに呼応する形だとするならば、サチオの言葉は、こう言っているんじゃないのか。

 

死なずに生き抜くことが夢だなんて、そんな世界は終わったんだよと。もっと欲張りになっていいんだよと。

 

「僕たちは自由だから。生きているだけでいいなんて、そんなのは夢じゃない。自分が何をして生きたいか。それが夢だよ」

 

 

どうか、もっと欲張りになって。
自分のしたいことを、自由に、手に取れる、そうして人の輪の中に笑っていられる道を歩んでください。
真田佑馬様。24歳、おめでとうございます。
ここで生きていてくれて、私は、泣きそうなくらい、幸せです。

 

 

 

*1:満鉄勤めのサチオ父は戦後5年すぎまで難を逃れてあんな上流っぽく暮らせてたのかとか1950年サチオが生まれたときにかぶさる爆撃の演出はなんだとか、1990年没のツネさんが50年産婆さんやってサチオが1人目って言うの計算合わなさ過ぎるとか(原作のツネさんは2010年ぐらいに引退式をやっている)、1976年1月が本公演ならプレビュー前の稽古って75年の話じゃね?とか、その当時ホットの飲み物にコンビニカフェみたいな飲み口付きのフタなくねとか(隣に座っていた友人が大千秋楽でそこを確認しだしたので鬼!と思った(笑))。あとはとにかく「歌っていられれば、そうして人とつながっていられれば場所には頓着しない」質が見えた原作のサチオだからすんなり繋がったパイロットも、舞台ではトニー賞への悔しさを一つ挟んだことで捉え方が難しくなったなーと思う。

これまでのブログ記事を本の形にしてみたまとめ(付追記)

なんというか新しい文章を書こうにも呪詛か恨み節か地下から漏れ響く泣き声みたいな感じにしかならなさそうで全然書けることがなくて、っていうところで、ふと思い立った。

「今までのやつをまとめよう」

以前購入させていただいたことのある『少年コレクション』さんなどオタクによるオタクとしての同人誌というのがとても面白かったので、別に誰に見せるわけでもない自分用だけども、まとめるなどしてみようと思ったのです。コピー本だけど。

ということで、これまでの記事を小冊子にしてみた試みの覚え書き。

 

 

①紙に落とす記事を選抜
なんだかんだでこれまで雑多に50強の数記事を残してきていたらしいのだけども、そこから選ぶこと22こ。とはいっても内2つは英語部参加版とそれの元の日本語版とで重なっているので実質内容的には20になるのか。私は6割も外すほど何をそんなに書いてきたんだ…。
とりあえず画像多用ありきのものとか他ジャニメインのもの、あと創作文はあらかた外して、おおよそのんさなに関するものと言葉に関する記事が自分の核だなぁーと思うのでその辺りを持ってくることにした。
とりあえず手始めに目次っぽいものを作ってみて、「(*゜∀゜)本っぽくない?本っぽくない?」とぼんやり悦に入る。

 


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これは出来上がったやつの目次。後ろ半分が文字が薄くなっているのが、後々の恐ろしさである…。

 


②表紙用の紙を買う
(*゜∀゜)せっかく作ってみるんだからね!ちょっと紙とか特別に買ってみてもいいジャン!? みたいな気持ちで、紙屋まで出向いてみた。

初っぱな入り口からいきなり「ブライダルにどうぞ!」ときらびやかな、まことにきらびやかな紙のサンプルが招待状の形で十数枚並べられていて、オタクがオタク用の紙選びに来てすみません…とめげかけたが。

先にいた方はデザイナーか何かのようでもう御用達みたいな手慣れた様子で紙のカットまで頼んでおり更におののくも、むやみにお店の方に声をかけられることもなく、気の済むまで紙を眺め回すことができました。

しかしどうにもピンとくるものがない。

のんさな厨なんだから赤とか青でいいじゃんと思っていたのに、いざそういう紙を見てもいまいちピンとこない。とりあえず渋い文集みたいになるのは避けたい。もうひとり来たお客さんがお店の方を質問攻めにしていたので、これはいけるのではと思って自分も尋ねることに。

 

「(見本ファイルを見ながら)この紙ってどこかありますか?」
「あっこれですねー(模造紙くらいの大きさゾーンで)もう廃盤になるので少ないんですけど、何枚切っても料金は同じなので、枚数ある方がお得ですねぇー」
「あっそっか、カットお金がかかるんですね…」
あまりに無知である。
「あ、じゃあそんなに枚数必要ではないので、元からA4のやつで似たのありますか?」
「これどうです?」
「あんまり色がぺたっとしてないのがいいなぁと思うんですけど…なんていうかもうちょっと…くすんだ灰色のやつ…」

 

私はこのコピー本をどういうテイストにしたいのか。

 

あくまでオタクが担当のことを書き散らしたものをまとめようとしているのだからもっと明るくしてもいいのでは!?という声が理性では鳴り響いているが、感情は「こう…地に足を縫い止められた…行き場のない気持ちのような…」的なものを求めている。厨としてあまりに活力がないのでは。

などと言いつつ、結局灰色の紙をお買い上げ。紙の名前を覚えていないのほんとダメ人間。

 


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今見るとなんていうかこう、…墓石っぽいね…*1


その後お店の方が他のお客さんに言っていたので文具屋さんにも行ってみたのだけど、A4サイズならここでも十分見比べられそうかなーって感じでした。

<ペーパースタジアム>http://paper.main.jp

今回行ったところ。天神北を更に上っていって、博多座のもうちょっと裏くらい。歩くと20分強くらいかな? サイズをたくさん選びたいときとかアドバイスをいただきたいときは良さそう。お店の方がそれならこう、みたいな紙を即座に繰り出してくる。

<JULIET's LETTERS>http://www.juliet.co.jp

アクロス1階の文具屋。こちらもわりときらびやかな紙が多い印象。A4・名刺サイズの紙と、イタリアンペーパーなるものが置いてあった。

<インキューブ天神店>

http://www.incubenews.com/tenjin/

B4・A4・名刺サイズだったかな? プリンターに使える紙が中心という印象だけどバリエーションはいろいろあるし、立寄りやすさではいちばん手頃かも。

 


③記事を縦書きに落とし込む
結局ここの作業が9割だよね…。ワードに人格があったら物理的に殴り合ってるしもはや自分に時給払ってあげたかった。
まぁやることとしては、「内容に手を入れる」ことと「体裁を整える」こととがあるわけですが、

 

とりあえず22記事分の文章を貼り付けられたワード「168ページです」
とりあえず22記事分のコピペを繰り返した私「」

 

ひとまず「文字のサイズを小さくする・二段組にする・段落ごとのスペースを削る」ことで110ページほどに削れましたが、その作業中に分冊にすることを決意した。それでも目次とかいろいろ足して上巻56ページ下巻68ページだぞバカじゃねぇの。そうだよ目次が薄いのはそこまでしか載ってないってことだよ。

 

で、以下が基本の書式と自分内ルール。

・文字サイズ タイトル11、本文9、注釈とノート8
・フォント 日本語:MS明朝 英語:Times new roman
 たぶんひねりはない。
・基本は漢数字。雑誌の号数はアラビア数字。
・英語は横向きのまま。DVDやV6など、一部は縦書き。(いやしかし今見たらえびは横向きになってるぞ…なんだこの基準は…)


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「!!!」3つくらいなら縦中横にしても見やすい気がする。「!!!!!」を1マスにまとめるとあんまりインパクトがないかも。

 


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ライナーノーツを読むのが好きなのでそれっぽいのを挟み込んだり



あとはブログの中では軽率に顔文字劇場を繰り広げているのですが、縦書きにするとどうしても崩れるのは避けられないということで適宜やむなく消したり縦中横で処理したり。
縦中横、(サ∀ナ)(のωん)くらいならまぁいいけど、(*サ∀ナ)こういう顔にするともう見づらい。あと(サ∀ナ)は半角なせいで全部横向きになってそのままでもまぁ見るに耐えるんだけど、(のωん)はひらがなだけ縦書き、ωは横向きになるのでどうしようもない…。

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縦中横ののんさな/縦書きさなちゃん/縦書きのんさん(再現)

 

しかし改めて、11年だか12年にはもうJr.ながらみすの8人分の顔文字が定着してて、だてさま(`ё´)とかすげぇ似てるのに真田(サ∀ナ)野澤(のωん)って潔さが過ぎるよね。いや好きだけどね。顔文字だと野澤さんより小顔になってよかったね。

 


以下今回のワードとの殴り合い。
三点リーダーは和文フォントにしないと真ん中にならないことは学んだ。
・「””」のカッコの配置がうまくいかなかったんだけど、これもフォントをどうにかしないとならんのだろうか。識者助けて。
・ページ番号入れるのめんどくさい。たぶんページのセクション分けか何かしないといけなかったんだと思うけど、もうやけになって目次にも奥付にもページ番号が入っている状態である。
・なぜ! なぜ上段最後の行を埋めずに下段に行くのか?!!?! その空間の意義とは?!!?!


ともかくも格闘を繰り広げ、PDFで保存すれば準備完了です。

 


④印刷をする
お世話になったのがセブンイレブンのコピー機です。オタクRTで「めっちゃ同人に寄せてきたぞ!」みたいな機能のレポを見たことがあったので試したのですが、すげぇ簡単に本のページの体裁で出てきた。

やり方はこちらのページが分かりやすいです。

http://mitok.info/?p=34714&page_access=via
自分で気を付けるのは4の倍数でページを作っておくことくらいでしょうか。
出来上がりがA5 = A4に2ページ分を印刷することになるので、印刷代は「ページ数÷2×10円」。私のは上巻下巻それぞれ280円、340円にて印刷完了。
あとはコピー機に忘れ物するなよ!っていうやつですかね…最近これで何度かコピー機使ってて、USBとおつりの忘れ物に1件ずつ遭遇した。印刷物忘れるのも怖いよね…。

 


あとは紙を折って表紙用に買った紙と一緒にホッチキスすれば完成です!(*゜∀゜)中綴じ用のホッチキスというのを使うと楽です。

いや表紙に題字の印刷すらないていたらくだが。おうちで手差し印刷ができたり、おそらくキンコーズなど行けばそれでいいのかなと思うんですが、キンコーズ使いこなせないオタクは諦めた。

 

 

出来上がりがこれ。
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折るとちゃんとページが順番になるように印刷されています。


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無駄にエピグラフを入れてかっこつけてみるなど。(※「さもなくば一握の砂を」で引用した阿久悠の詩)


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がんばって英文中の日本語を横向きにしたのに一部し忘れたへぼさ。


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ふまたんも横向き。


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附録という体裁でかっこつけてみたがるがここにもページ数が入っている悲しさ。


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寓話は一段組にした。

 

 


終始誰得の代物でしたが、編集してみて結果、双数の話に始まりそれが最後寓話の紐解きに繋がらざるを得ないのは、あぁーすげぇ…すげぇ私って感じ…な仕上がりになりました。

まぁ全部おおよそブログと同じ内容なんだけど、紙で手元にあるってやっぱり面白いですね。みんな軽率に本つくるといいよ。とりあえず体裁整え直して完全版つくりたいです。今度は赤と青の紙買います。

 

 

※追記


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とりあえず完全版(仮)つくりました! (仮)なのはまだ体裁不備が見つかったからです…


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これはひどい

 

写真だと赤がだいぶ明るいですが、実物はもうちょっと暗い赤です。逆に青は買うときにはこのくらいでいいやと思ったけど、いざ綴じてみるともっとくっきりした青が良かったかなぁと思っている。タントというちょっと見た目革っぽい?紙です。かなり厚めだったのでただでさえ本文ページがそこそこあるのにホッチキス死ぬかと思った。

 

http://portal.tt-paper.co.jp/fancy/search/product_list1.html

紙がたくさん載っているので楽しい。タントな!名前今度はチェックしたぜヤフー!(゚∀゚)と思って改めて調べたらめっちゃ種類があって再び負けた。たぶん6番だとは思う…。

 



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皆様もぜひ。

 

 

 

 

*1:一覧を見ると、おそらくフレンチマーブルだったのかなと…石と和紙のイメージ足して割る2みたいな感じの紙。

コインロッカーはどこにでもある ーーコインロッカー・ベイビーズという「普通」の獲得

ぎょっとしたのは、彼らの着衣が汚れていたからだった。着衣、というのは会見やゲネプロなどでも事前に挙げられていた「オムツ」だ。排便にまみれたオムツ、そうして吐瀉物の滲んだよだれかけ。赤ん坊たち、と名前を宛てがわれたアンサンブルたちは皆それを身につけていたのだ。
ハシとキクはきれいだった。ああ、ハシとキクの背後にすら、既に選ばれなかった赤ん坊がいるのだと思った。原作でも謳われている。「ねえ、二人しかいないんだよ。他のみんなは死んだんだ、コインロッカーで生き返ったのは、君と、僕の二人だけなんだよ」
劇中でもDによって言われている。「コインロッカーに捨てられたくらいでえばるな」

それでは、生きることができたハシとキクは、悲痛を訴えてはいけないのか。そうではない。そうではないはずなのだ。
特異な環境というのは、矛盾した二重の視線を彼らに投げかけさせる。"絶対的に"悲痛とは誰にもあるもので、比較して物を言うべきではない、お前だけが痛そうな面をするな、という声と、その一方で"相対的に"お前はかわいそうだよな、という声の両方を。


事前に原作を読んだときに思い出したのが、宮藤官九郎についての文章だった。既存の作家を別の既存の作家で言い表すのも頭の足りない行ないだとは思うが。

宮藤のドラマの登場人物たちもまた、ほとんどの場合、およそ普通とは言い難い状況に置かれている。(略)しかし彼らはそんな不運を、逃れられぬ絶対的な運命にはしない。(略)
ひとことで言えば、宮藤が描き続けているのは「普通」そのものではなく、生き生きとした「普通」が獲得されてゆくプロセスにほかならない。宮藤の根底にあるのは、「普通」こそが豊かな生の営みであるが、それはいまや所与のものではないという認識である。これまでのドラマの常識を覆すかのような一見ゆるいけれどラディカルな宮藤の試みの数々は、登場人物たちが、死と隣り合わせの日常のなかで「普通」を獲得するために捧げられているといえる。*1

もっと端的に言えばそれは、ドラマ『流星の絆』で静奈(戸田恵梨香)が言った「遺族が笑っちゃいけないの」という訴えだ。劇中の三兄妹は子ども時代に両親を殺されるという不幸を「背負わされた」存在である。
Dは、ハシに、キクに、いばるなと言いながらメディアに流すのだ。「コインロッカーに遺棄された子どもと母親の再会を!」
同時に投げつけられる言葉の、思考の暴力に、人は痛めつけられるのだ。
そうして各人がその矛盾に無自覚であり(もしくは気付いていながらもどうしようもなく)、自分の"絶対的な"痛みに囚われて生きるからこそ、それは結局時代のどこかでなくなるわけではなく、どこまで世代が下ってもそれぞれが痛みに苛立ち、もがき、経験することでしか解決され得ない。ハシが、キクが泣き、叫び、傷をつくり再生へと向かう物語はあって然るべきなのだ。


パンフレット寄稿の

だが舞台にかかってしまうことのおそろしさもまた感じたのだ。こんな破壊への衝動とやさしさのないまぜになった作品を、パフォーマンスとして提示してしまう、エンタテインメントとして消費してしまうほどに、いまの社会は、いまの社会の「壁」は頑丈になってしまったのか、と。

という小沼氏の言葉は(始まる前とはいえ)えらく舞台版を下げられてしまったものだなぁと最初思ったが、分からないわけでもない。そこには一次制作者から小説という形で個に渡されていたものが、別の誰かの解釈や演出を経た上で大衆に渡ってしまうこと自体への腹立たしさのようなものがあるかもしれない。実写化なり何なりで常々我々自身も感じ得るものだ。ただし、小説という形にせよ渡った先での感覚や感傷が人それぞれのものであることは不可避であり、そこからの派生を規制できないことはどうしたって受容せざるを得ない話なのだとは思う。*2
それでも舞台化への抵抗が拭えない人もいるだろうということも分かる。この作品はとりわけ相対化できない。ハシの、キクの痛みが決して容易に取り上げられてはならない彼ら個人の絶対的なものであることを叫ぶのがこの『コインロッカー・ベイビーズ』という作品なのだろうから。
そういったことを踏まえてでも、舞台『コインロッカー・ベイビーズ』は成功を収めたと思っている。ハシとキクの痛みは考えていた以上に、十二分に鮮烈に伝わったのだから。


真田が演じる駅員の言葉から舞台は始まる。未だ暗転もしない劇場内で、微かな客席の残響と新宿だ、と告げる構内アナウンスが混じり合った中だ。確かに雑多な雰囲気のままで始まることに初め戸惑いはあったが、意図として考えればあれは「地続き」であることの提示ではないかと思う。普段の私達の世界で起こる「異変」にしろ、さぁー今からイベント始まりますよ!と触れ回られて始まるわけではない。誰かは気付き、誰かは素通りするような景色の中に火種は潜みいつの間にか燃え広がる。暴発する。
「暑いな。暑い」
彼の閉めるコインロッカーの音と共に、暗転。つんざくように赤ん坊たちの声が喚き始める。
「熱い。熱いよ」
ハシとキク以外の、死んでしまった嬰児たちの悲鳴。彼らは後々2人の催眠療法の場面、及びハシがテレビで作家のことを知る場面で再び現れるが、舞台に組まれた連なる「箱」のセットから出ることはできない。
(ただし同じ格好で出てくるのは他に3つ、ハシがカナエの催眠術で赤ん坊に戻ってしまったときと、アネモネのワニの国サイリウム隊、ダイバーがダチュラの恐怖を語る場面である。1つめはハシがコインロッカーの出自に囚われていることの現れだと考えていいと思う。アネモネ親衛隊は「あれかな…始球式とかなんとか死後のほうが生き生きしてる貞子みたいなやつかな…」みたいなことをぼんやり考えていた。わざと薄暗い方向に考えるのなら、「生きてさえいればこの子たちだって何でもできたのに!」みたいな訴えを得られるかもしれない…。ダイバーとの絡みに関しては、ダチュラという中身なり記事の伝達という場面の性質なりで現実味よりも不気味さを表現できればいいと思うので、そういうイメージ先行かなぁと思う。)
そういえば、ハシとキクとが同じ場所から出てきたのも印象的だった(中段中央)。M01コインロッカー・ベイビーズの終了後は同じ場所へ帰っていくが(下段中央)、それ以降はカーテンコールに至るまで二股に別れていく姿との繋がりが好きだった。股。同じ股から出てこようが、同じ出自を抱えていようが、互いをどれだけ思い合おうが、2人は同一の存在ではない。別個の姿を歩んでいくのだ。
それからはっしーがハシを、ふみとがキクを演じることによって、ハシのほうが体格がいいというのもとても好きだ。キクが兄貴、キクは強い、そうして気弱なハシ、というのが2人の素地だと思うが、実際にキクの方が大きいと威圧感があったり、2人の役割がより記号的になってしまったように思う。精神性に関係なく体は成長してしまう、というのはそこに自覚的にされたときに苦しみが現れて、物語としての魅力が生まれる要素の1つだと思うし、逆に相対して細いその体の中に押さえ込むほどのエネルギーが常に張っているというのもキャラクターを好きになる一因だと思っている。
友人はキクのことを「ハシモンペ」と言っていたし、私はどちらかというとハシを「ブラコン」などと身も蓋もなく言っていたのだが、そういうところを含めて、河合橋本という歴史を持つ2人がこの2人を演じたことは大きくて、正直今後『コインロッカー・ベイビーズ』をこの2人以外で舞台に掛けるのは相当難しいだろうなぁと思っている。(違和感こそあれ成功しない、というのとは違うけれども)正直真田でも。脚本演出が全く変わってそれこそ音楽劇からも外れるんだったら話は違ってくるけども。


先述の暑い/熱いのように転換でセリフに使われる言葉が意図的に被る(タイミングではなく言葉が)場面も面白かった。薬島*3への鉄条網を跳び越えたキクへのアネモネの歓声とタツオの逸した笑い声が(これは実際の声も)重なってるのは超笑った。あの超かわいいアネモネの歓声と音の高さ合わせてくるタツオちゃんの笑い声…そりゃおくすりフルスロットルしなきゃだよ…。
あとはDからハシのことを知らされて、拳銃を持って出ていくキクに「キク待って!!!」と悲痛に叫ぶアネモネの後に、按摩の客が「…効く…!」って言ってるとこ。気付くと一瞬間抜けなんだけど、あっという間にそこからキャスターとキク、自分で名前もつけなかった、生後十何時間しか一緒にいなかった息子に保っていた日常を剥ぎ取られて、あの上り詰める山場前の一瞬の間にはなっているのかなと思う。
何より明らかに意図的に重ねられているだろうと思うのが、M17アネモネの「殺してあげる」の最後と、M18ハシの「愛の荒野」冒頭だ。2人は歌う。
『愛してるもの』
2人のシーンというと、裁判後退廷するキクに向かって「ダチュラを忘れたの!」と叫ぶアネモネを見下ろして「…キク、苦しんでるのに」と呟くハシの対比がある。「のに」の後にはアネモネを非難する言葉が込められているのだろうか。
ダチュラだ。思い返せば、舞台中、ハシはダチュラを共有させてもらえていないのだと気付いた。催眠術でハシが赤ん坊に戻ったとき、Dに揶揄され暴力を受けたとき、キクはハシの側でダチュラという言葉を出すが、一貫して共にその言葉を唱えるのはあくまでアネモネである。「愛している」キクに、分かたれることで愛を示されることもハシにしてみれば苦しみの1つだっただろう。何もかもにだ。みんなの役に立ちたい、みんなに幸せになってほしい、そう願うだけの愛している全ての誰かに捨てられるという嘆き。
「…キク、もっと参ってると思ってた。だって裁判のときあんなに元気なかったじゃないだから僕、一緒に考えようって思ってたのに!!」
「僕は捨てられた、広い広い広い広い広い、コインロッカーの中に!!!」

常軌を捨ててしまったハシにキクは歌う。目の前の全てが壁だ。その中でかわいがっていた「犬」、和代と行った場所のはずである「デパート」すら壁だと歌われたことに初めは驚いたが、そうだ。思い出は、しがらみと表裏一体である。(舞台では出てきていないが)自分を「コインロッカーから見つけた」犬、自分を「赤ん坊に戻した」デパート。
時に負の要因は自分の道を細く狭める枷になる。次第に荷重を増して首を締めていく呪いのようなものだ。「ああやって生を受けた自分は、世界を恨まなければならない」「ああいった目に遭った自分は、その元凶を殺さなくてはならない」そういったろくでもない生き方にしばりつけようとする呪い。

精神科医は言う。「大切なのは、変化したのは自分たちなのだと気付かせないことです。思わせるのです、変わったのは、この世界のほうなのだと!」
世界が寛容になったほうが、出自が変わったと思ったほうが、意識の変化は容易だ。痛みが取り除かれた世界では、恨むことを知らない。だが本当はそれでは足りないのだ。それでは駄目なのだ。だから治療は破綻する。自分の中の"絶対的な"痛みは消え去ってなどいない、どんなに奥底に押し込めようと、忘れたつもりになっていようといつかは、向かい合うしかないのだ。だからこそ2人は、生の中でもがく。生き続けるために。痛みを噛み砕き飲み下し、腹に据えて生きるために。


正直なところ、キクの撒いた"ダチュラ"が実際に東京を真っ白に塗りつぶしてしまったのか、というのは未だに分からない。人の絶えた瓦礫の街でただ破壊に勝ち誇る姿というのも醜悪なメリーバッドエンドのようだし、かと言ってこの作品で安易にただただ意識が変わって「一度死んだつもりでがんばる」などという展開にもしようがない。ここまでだらだらと書いたくせに尚、そのラストを現実味を持って解釈できないのだ。
ただこれだけは思う。彼らは自分たちが何をしてもこれが自分だと言える、「俺たちはコインロッカー・ベイビーズだ」と言える力を、手に入れたのだと。
それは、陳腐な言葉で言えば「普通」ということだ。一部ではあるけど、特筆することじゃない。コインロッカーという出自を自分のものとして飲み下した。物語は、彼らが自分にとっての「普通」を獲得したことに他ならなかった。




*1:ユリイカ』2012年5月号 特集「テレビドラマの脚本家たち」 岡室美奈子宮藤官九郎は「普通を目指す」 ツッコミとフィクションの力」

*2:などというのは私が舞台版も好きだから言えることであってな!私の望むもの以外絶対に殺すマンになる感情も分かりすぎるくらい分かるんやで…

*3:舞台では汚染地域としか言われなかったので結局読み方が分からないままである…やくしまでいいのかなぁとは思うが

生き物と僕とにまつわる寓話

稽古場を出ると、にやにやと楽しそうな顔に眺められる。
「…なんですか」
壁にもたれて待つという演出をするのも多少面倒くさい。いやまあこの人の場合そういう"ベタ"が好きな昭和の人間だからなぁと、こっちからも笑い返した。カオルくんは組んでいた腕をほどくと頭をかきながら、タスク、どーよ今回の筋書は?と見上げてきた。濃いまつげが上向きになり不敵な顔を見せる。角度も決め込んでいるのかもしれない。
「どーよって」
「ていうかあいつは?まだやってんの?」
「稽古つけてますよ。タケとウタのところ」

今回の題目は幕末、ことに明治維新が舞台のものだった。若くその跳ね上がるほどの身体能力を売りの一部としている俺たちの組としては当然のように、そこには大掛かりな殺陣が組み込まれている。
二人はとりわけ年少の存在だ。新入りというほど経験が浅いわけではないが、こと所作が必要なものとなるとまだ十分な技量が身に備わっているわけではない。拾われたのには年の差がある。
俺もついさっきまでは一緒になって面倒を見ていたのだが、突き放されて出てきたのだ。
「お前たちは同じ軍なんだし戦う必要ないだろ」と。


あいつはそういうやつなのだ。稽古の最中から既に、二人に自分への敵対意識を植え付けようとしている。役に入るとすぐにこうだ。ある意味血が上ってる。あいつの顔はもう、崇拝する軍隊長ーーそれは目の前にいるカオルくんが演ずるーーのために謀略すら図る奇兵のそれだ。そうして俺は、戦場で幾度かまみえた末最終的にその命の灯をかき消すーー義兵の役だった。
「まあーそりゃ頼もしいこと。こっちの軍に入れて正解だったなー」
「…楽しそうっすね。俺、カオルくんならあいつのことこっちにやると思ってましたよ。だってこっちがヒツジくんが隊長じゃないですか」
「あぁそう?いやぁーだぁってねぇ俺」
ヒュウと口笛でも吹きそうな面持ちのカオルくんは更ににやりと笑い、俺を指差して続けた。
「番になってるやつ同士が戦うとかって、超ーっ好きで燃えるの」


「ねぇーカオル、ツガイってなに???」
彼が表情を決めたところで、後ろから無造作にひょいと、無邪気な顔が現れた。
カオルくんが驚きはするものの振り返って口を挟む間もなく、流れは怒涛となる。
「アキそれはな、だいたいのところ男女のペアを指す。簡単に言えば夫婦ってことだ」
「えぇーそっかひぃやっぱ頭いいー!っていうかえっ!タっちゃんたちって夫婦なの?どっちがお嫁さん?タっちゃんの方が背ぇ高いからタっちゃんお内裏様すんの?」
「バッ、バカ俺はな!そういう下世話な話で言ってないんだよ!やめろそういう想像させんの!見たいかあいつのドレス!」
「俺は兄貴として喜んで送り出すけどな。目元なんか女らしいし、意外ときっと似合うんじゃないか?」
「けっこうゴツいぞ?!」
「っていうかカオル、恥ずかしくなるんならそういう言葉使わなきゃいいのに」
「うっせーわ!お前らがへっ、変な風に言うせいだろうが!そんなつもりでなんか言ってないわ!!!」
…一挙に、波のような応酬に巻き込まれて差し挟む隙を見失った。
問いに答えたのは一緒に現れたヒツジくんだ。先に触れたように、この度は俺の側の軍隊長として立っている。あいつには負けるにせよ、俺も十二分に、彼のことを尊敬している。
くるくると表情を変えるのはアキ。年は俺たちの一つ下でありながら今回の役柄は副隊長であるーーそれは彼が、この組の中核となっていることを言外に示していた。拾われた時期は、そう変わらないというのに。それでも彼を、どうしても憎みきれないというのは、背丈も伸び青年期になった今も失われない天性の爛漫さによるものだっただろう。彼が俺たちを愛するように、俺たちも皆彼を愛していた。
「変かな?キリンと言うなればウマだし、がんばれば番えるんじゃないか?」
「いやそれ何の話っすか」
ヒツジくんがさも平然と話を続けるのに、ようやくツッコんだ。ウマはまぁあれとして、キリンって俺のことか。そりゃあ背丈のことでそう自称したこともあるけど。っていうかただでさえ夫婦の想像で苦笑いしか出ないのに、その上獣姦みたいな話やめましょうよ。
「…まぁそういう番の話はともかくだ何も交われって言ってるわけじゃない。それにあいつの前でならお前には、こっちのキリンが似合ってる」
苦い顔を素直に出していたらしい俺に対してそうして至極真面目な顔をして、銀色の缶が、目の前に掲げられた。

「……そっちかよ!」
正しい反応が分からず出足の遅れた俺に代わってツッコんでくれたのは隣のカオルくんだった。
ハッハッハッハッ!と高層ビルの屋上にでも立ったヒーローのような笑い声を上げているヒツジくんを、アキが呆れた子どものように口を曲げて見ている。
「なぁタスク。お前は何にだって、あいつの神様にだってなれるって、忘れんなよ。何かあったら空を駆けて、迎えに行くんだ。いいな」
ヒツジくんは最後にと何かを伝授するかのように、輝かせた目で俺の両肩を掴んだ。
…なんだ。なんの話だ。アキに、酔っぱらいー!、と引きずられていくように連れていかれる人を眺めながら、俺とカオルくんとで互いに呟いた。

「マジ、酔っ払うと尚更筋がわかんねぇなヒツジ」
「…はぁ、まあ」
「…お前、まだ未成年だっけ?」
「まぁ、ギリギリ」
「呑まれるなよ」
「…はぁ」



「なんかヒツジくん笑ってたけど。何してたんだよ」
少し息の上がったまま落ち着かせようとゆっくり放たれる声と、汗の気配がする。今度は俺が驚きにすぐさま振り向かれない番だった。
「おっ終わったのか。タケとウタは?」
「…へばってますけど…一応ここに…」
「うわいた」
カオルくんの問いかけにようやく向きを変えてよくよく見ると、その背後に二人が一緒にいるのにも気が付いた。壁に手をつきつつ、まだ音が漏れるような声でなんとか話している。
「で?なぁさっきのって」
ヒツジくんのこととなると気になって収まらないらしい。更にせっつくように睨め上げるので仕方なく俺が口を開いた。長い、黒々とした睫毛が濡れた目を縁取る。

「…俺とお前が、番だっていう話だよ」
「はぁ?」

汗に濡れた前髪の下、眉が上がる。胸がじくりとした。
未だに。未だに、だ。
目の前の男から、心を開ききったような素振りは、与えてはもらえないでいる。

「いや何もな、お前のドレス姿想像して笑ったわけじゃないんだよむしろあいつ似合うと思うって言ってたし」
「いや結局何の話なんですかそれ」
疲れてあまり考えたくなさそうにした結果垂れ流れるカオルくんのセリフは更に混乱を招く。兄貴分相手では分が悪いように控えめに言うのに対して、傍らで少しずつ生気を取り戻してきたらしいタケが、あぁ、と気付いたように声を上げた。

「タスクくんたち二人が、欠け難い対だってことですね」


タケが閃いたようにそう言うと、ウタも、たぶんそうっすねと同調した。
番って、まぁ男女のことも言いますけど、普通に一対のもののことも言いますよ。
俺たちの中でと言わず世間一般で問うても学のある部類に入る二人が言うのだ。間違った知識でもないのだろう。カオルくんはようやく言いたかったことが報われたとでも言うような顔をしていた。


「だって、タスクくん分かってます?俺たちを殺陣で稽古場に残していくとき、すごい目してましたよ」


そいつを手にかける時が来たとしたらお前らじゃない。それは俺のものでしかないんだって、それが当たり前みたいな。






暗い瞼裏を陽が刺したせいで眩しく、何度かしかめた後に目を覚ました。

ーー夢を、見ていたのだ。体を起こす。
(何年前だ…?3年、……4年…)
あちこちの骨をゴキリと鳴らして尚、その後に見たはずの表情がうまく思い浮かばなかった。自分の感情は覚えているのだ。俺にしても、役と同化したようなーーあるいは宛て書かれたーー感情はあいつ同様に沸き立っていたのだということを。同じだと、いうことを。

あれから何年も経っている。状況は随分と変わった。タケとウタは組を離れた。まだ幼いとも言える年齢ではあったが、それでも守り育てなければならない対象を見つけたのだ。別の場所に分かれはしたが交流を持ち、よい関係を築いていると言える。
カオルくんたちの組から、俺たちも巣立った。
そう、『俺たちは』巣立ったのだ。



ひとりで目覚める朝も、次第に慣れてきたように思えた。
そう自信を覚えようとしたせいだろうか、寝起きの散漫になった頭を鴨居にぶつける。
その瞬間鮮明になった。
『それは俺のものでしかないんだって、当たり前みたいな。』
その言葉に、滲むような愉悦と、そうして泣き出しそうな表情が掠めた、あいつの揺らぐような姿が。



駆けろと。本能が囁いている。