一度や二度の悲しみじゃなくて

だいたい野澤と真田の話をしています

お前はその愛を外から見たかーー劇団番町ボーイズ☆×10神ACTORコラボ公演『甘くはないぜ!3』<ウラ>

お前はその愛を外から見たかーー劇団番町ボーイズ☆×10神ACTORコラボ公演『甘くはないぜ!3』<オモテ> - 一度や二度の悲しみじゃなくて
<オモテ>で澄ましたブログも書いています


舞台『甘くはないぜ!3』の千秋楽ほぼラスト、それまで見たことのなかった緑色のライティングが縦横に走った瞬間はハテナマークを大量に浮かべたのだが、そこから喜界先生が喋りだしたところで「あーーーー!!!あーーーーっ!そう、そう来るか!!!そう寄越すか!!あーーーーうわーーーー!!!」とボイスレスで絶叫してしまった。


何が起こったか。そもそもそこは幕末に来てしまった千代太を喜界先生がタイムマシンで現代に送り届ける場面だったのだが、最終日に辿り着いたのは恐竜の時代だった*1「訳の分からない時代に飛んだことに」混乱する千代太と「いつもと違うことを見せられている衝撃に」混乱する私たちの前で喜界先生は話し始める。
「わしはずっとタイムリープをしているんだ。誰がどんなことを言うかもう全部分かっている」
「けれど流れを変えちゃいけないからね、同じような感じで相槌を返している」
「わしとお客さんだけが同じスタンスなんだ。あー、意味が分からないよな」
「でも毎日毎日おんなじだとつまんないからね。大喜利とか、投票の結果とか、わしがいじってたの」
「今日が最後だから、ネタバラシのスペシャルエンディングにしたんだよ」


…こんな、こんな展開をぶちこまれてオタク叫ばずにいられようか(しかも我が推しがその役目を担っている)。というかそんなことを突然言われたので記憶が混濁しすぎてセリフがあやしい。もはや喜界先生の一人称からして自信がなさすぎるがコラボ公演であったおかげでDVDが出ますありがとう。


確かにまぁ、喜界先生はアドリブしないなぁと思ってはいたのだ。冒頭の常吉くんに始まりパワフルな客演の方々の暴走もあって結構みんなアドリブをしまくっていた印象なのだが(振り返ってみるとあとは餡之丞・柚之介組とか饅次はあんまりなかった?かな?)、そのため10神の中でも不動の演技の馬越くんが歯がゆくて、そういうお遊びが!私も見たいよう!などと思っていたのだ。それが。それがだ。それがだよ!!!浅はかなオタクめ!!!



などと殊更に反応するのも、以前私自身がこういうことを言ってしまっていたせいだった。
以下は、昨年8月の10神ACTOR人狼TLPT公演に寄せて残したブログの一節である。

与えられる1。それはこの舞台の全であると同時に10に基づく欠片である。
これは上記のような本家ースピンオフといった関係から言えることだが、私個人の感想を言えば、それだけではない。
繰り返すようにTLPTの要は「今をおいて他にない、たった一度の物語」と銘打った脚本なしのアドリブ芝居に拠るのだが、その日々の、毎回のズレが見ている私に奇異を感じさせたのだ。
ナナに召集されC7ユニットの強奪に乗り出すメンバー。成功から一転、人狼ドラッグの服用者が出たことで互いを疑い合うデスゲームが始まる。その都度役割は違う。また違う者が死ぬ。何度めかの朝に人か、人狼か、どちらかが勝利宣言を下し幕は降り、――そうしてまた初めから物語が繰り返される。それはまるで、ループ世界を踊らされているようにも見えたのだ。

私達はそれを外から見る。別の世界線の彼らを知っている。まぁ演劇というのは公演を重ねる反復活動ではあるしちょっとした日替わり要素があるのはよくあることだが、至る結末が全く違うという舞台を見るというのは初めての経験だった。にもかかわらずだ。明くる日の舞台はまた、もう一度、何度でも、そう繰り返し何食わぬ顔で幕を開ける。これが奇異でなくなんだというのか。
(中略)
あるいは、「ナナがこのループを楽しんでいるのだということこそ、この舞台の大枠なのかもしれない」などと思い至った日さえある。

bookmared.hatenablog.com


この話なのだ。まさにこの話なのだ。なんというかそれなりの文が書けたと思って満足していたら作り手からまんまとリバースカードオープンされたような気分である。楽しい。オタク!めっちゃ楽しい!!!
我々は、外から見る高揚をも許されている。

ちなみにこの間のリリイベ握手会に参加できたので馬越くんに「喜界先生のタイムリープ設定っていつから決まってたんですか!」と一生懸命聞こうとしたのだけれど(かわいくて眩しくて直視できないし非常にテンパっている)、剥がされたので質問を投げたところで終わってしまった。隣の坂田くんが笑っていたような記憶だけがうっすらとある。握手会強者になりたい。無理。




そもそもこの『甘くはないぜ!3』という舞台について、果たして観客ってどのスタンスでいればよいのだろう?というハテナを抱えて現場に入っていた。みんなどうやって投票してるんだろう。本当に単純にチョコの好みで?どの役かに感情移入して?好きなメンバー(役ではなく本人)を勝たせたいからとハナから決めていて?あるいは、これまでの戦績に押されて?
観客の投票結果による二択のエンディング。実際のところはエピソードの順序が少し入れ替わるぐらいだったので、二択の持つ意味とは実質「餡之丞が勝つか天使郎が勝つか」だった。おそらく福岡に限ってこと極端に言えば客席のその関心事は「『天使郎が』勝つか負けるか」だと言い換えてもいい。そこで注視されるのは大局ではなくもはや「主語」だ。天使郎が、それを演じる坂田隆一郎が、彼が背負う10神ACTORの看板が、どうであるか。この現場に観客は、単純な演劇だけではなくその外に纏うものを込みにして見にやってくる。

まぁ私がTLで「天使郎さま勝たせたい」という人を多く見ていただけなのかもしれなくてそうした人が実際どれくらいの比率なのか分からないし、あとは観劇のスタンスには優劣があるかとかそういう話はしていない。ただ持っているのは、何があの戦局を左右したんだろう、どうやってあの舞台は成り立っていたんだろう、という興味である。
劇団番町ボーイズ☆×10神ACTORコラボ公演であり先方の糸川くん、こちらの坂田くんとをトップに立てた陣営ではあるが、チーム分けは番ボVS10神、というわけではなく、というかそもそも人数の偏りがものすごく大きい(餡之丞☆チームで対戦に当たるのが千代太☆、柚之介☆、喜界先生◎、常吉☆、寺数◎+応援する益兵衛☆、饅次☆。対して天使郎◎チームにいるのは藤次◎のみである。☆が番ボで◎が10神)。上述の何が投票要因にせよ、天使郎チームが通算イーブンにまで持っていったのは結構大変な事態だったのではなかろうか。
とりあえず、天使郎さまを福岡初日1票差の負けで迎えさせてしまってからの2日めダブルスコアは修羅の民総力戦って感じで個人的にはめちゃくちゃ興奮した。えぇ私も投じましたけども。




日替わり要素、対決、通算成績。そこにはリピーターを呼び込み購買に繋げる興行的側面も当然あるだろうし喜界先生の言葉はある意味その措置を立てることへのエクスキューズかもしれない。だから何だ。それまでを包含して仕立てられた物語は尚、尚面白い。
大阪一緒に入ってくれた友達に「栞さんがよく言ってる『まごりゅう』絡みなかったね?」と言われたがその通りで気付いてみれば作中喜界先生と天使郎さまは本当に絡みがなかったのだが、喜界先生のタイムリープ(+タイムマシンによる時間跳躍)と天使郎さまの「うまれかわり」はどちらが強いのかとか、そういうのを考え出すとオタクの頭はフルスロットルでもう煙が立ちそうである。天使郎さまおいくつであらせられますかチャレンジin握手会も失敗した。無理。





全か欠片か中のみか外を乗せるか、どうやって見るも正解はなくすべては同時に成立する。ただしすべてにおいて言えるのは「閉じたループに再現性はない」ということだ。『甘くはないぜ!3』を幾度も繰り返したループ、それをリアルタイムで体感できた興奮がただ残る。
己の目ですべてを見る。レイヤーは自分で選ぶ。渦中に身を投げ出し自ら目撃することの放つ抗いがたい魔力が、私を再び現場へと走らせるのだ。


f:id:bookmared:20190311220039j:plain
4も待ってます

*1:その後ちゃんと現代には帰れました