一度や二度の悲しみじゃなくて

だいたい野澤と真田の話をしています

愛惜の花束を君に

 

「さよなら、10神アクター」*1。今日行なわれたライブのタイトルは伏線通りの回収がなされてしまった。
我々と10神ACTORとがではない。
メンバーのフロントマンとも言える坂田隆一郎が、来春でのグループ脱退を発表した。
メンバーには相談がない状態で。福岡サンパレスという大きなステージの、その壇上で。*2

 

 

そもそもは18年10月九州ツアー初日長崎にて、サンパレスでのワンマンが告知されたことに始まる。サンパレス。その図抜けて格別感のある会場に私たちももちろん、メンバー自身も興奮に逸っていた。どもるように何度も「サンパレスよ?!」という声を繰り返した。
開催が近付いてきた5月、タイトルの発表である。「さよなら、10神アクター」。この疲弊を煽る邪悪。急に提示されてもまぁあれなのだが、実際のところ、そこに至るまでの間にこのタイトルを受けて「本当にそういう可能性もあるのかもね」、という考えを頭の隅に留め置く空気があったのも否めないのではなかっただろうか。冠レギュラーの終了、片や始まった連続ドラマの放送局の偏り*3SONY所属のグループを越境させた歌唱ユニット(10神ACTORからは3人が加入)の東京での仕事。そういったアンバランスさに対してのおそれは、ある程度の受容態勢をつくりあげていたかもしれない。本当の解散、あるいはメンバー減。
そのさなかでライブに先んじて、9月に九州限定メジャーデビューとしてアルバムを発売すること、この10人でのデビューであることが報じられた。それでもライブは「さよなら、10神アクター」なのだ。元々ドッキリなどが嫌いなタチだというのもあって、そう提示する意味が私には分からなかった。*4

 

そうして迎えた当日。結果として私たちは油断したのだ。


夜の公演を控えて11時、前日に突如始まったカウントダウンがゼロになった瞬間、9SPなるページが更新され、複数の内部ユニットが発足する旨が示された。本体グループは並行するのか休止状態になるのか、またそうなった場合露出の差が生まれてしまうのではないか、…そういった疑問を余所にそれは、30分ほどして見られなくなる。そこには新たに21時をゴールとしてタイマーがセットされていた。ライブが終わる頃。まさか、明確な区切りを設けて行なう性質のはずのものですら「間違って」やったのか? 少なくとも私の運営への評価は「それがありえなくない」という信頼の低さだった。*5 *6

 

そうして始まったステージは、「ライブ後に解散を告げられる未来」を知りタイムリープした2名を契機にしてその未来を変えることを目指し全力でライブを行なう、という筋で展開された。楽しかった。叫んだ。馬越くんがかわいかった(ライブになると99.9%馬越くんしか見えなくなる。ダンスがタイプすぎるので…)。
「解散?何の話だそれ」
ラスト、スタッフの応答により未来は更新された。そこから目まぐるしく発せられる9SPプロジェクト、そうしてドーム公演。SONYが主導し複数の九州ユニットに競わせた上位9組により、10神ACTOR単独ではないとはいえ、22年にヤフオク!ドーム公演を実現させるというのだ。夢物語のような展開。ドーム?ドーム?!ドーム?!!?!
フライング疑惑の内部ユニット結成もその一環だった。各々の曲も披露される。それが入るアルバムのジャケ写もめっちゃかっこいい。
なんだ。「さよなら、10神アクター」というタイトルに依るあれこれは取り越し苦労で、疲弊もしたしプロジェクトの具体的な展望はまだよく分かんないけど終わり良ければ全て良し、ある意味茶番、予定調和だったのだ。「解散、ないんだって!」そう走り込んできた、お芝居のように。

 


そうして最後に彼がその油断を、すべてをひっくり返した。彼はずっと爆弾を抱えていたのだ。
「僕は脱退します」
「この9SPプロジェクトには残るけど、10神ACTORの坂田隆一郎として立つのは、来年の春までです」
油断していた私たちが初めそれを本気だと受け取らなかったのはともかくも、壇上のメンバーが、いちばん下手側の彼に居向いたまま、皆、絶句した。
いや、いやいや、さっきまでのは手玉が分かっていたからこちらは油断してたけど、これも嘘でしょう?ステージの上の皆は分かっててやってるんでしょう?坂田氏の深刻な言葉も、思わせ振りな演技でしょう?と。

そうした胸のざわつきが真実のものだと知ってしまったのは、岡くんが泣きはじめたときだっただろうか。誰がどんな順番でどんなことを言ったかはもう正確ではない。
ただ、岡くんは先述のドームプロジェクトを出して「そのときそこに立ってなかったら絶対に許しませんからね」とぼろぼろに泣きながら見据えて言ったし、「補足するけど」という言葉を確かに使って「俺たち9人だけじゃなくて、抜けた坂田のことも応援してほしい」と言い「ドームのときに『抜けんどけば良かった』て言うなよ」と茶化した馬越くんがその後最後の方には歌えなくなったこと、普段トークで前に出ることの多くない健登が自分から発信して、「りゅうくんが決めたことやけん、それがいいと思う」と言ったこと、裕貴が折に触れ「俺らも戸惑ってる、ドッキリとかじゃなくて本当のことと思う」、と話の筋道を立てようとしたこと。北田くんが最後に「りゅうくんに大きな拍手を!」と大きく手を上げて言ったこと。松島くんはその告白の後何かにつけ「皆で歌う『最後』になりますから」、と繰り返し言っていて、あれはいつものMCとしての進路づくりという以上に、そんな爆弾を投げて寄越した坂田氏への当て付けのようであったかもしれないなどと思う(松島くんの実生活一人っ子に近い末っ子性質好いてるので非難ではないです。いかにも、いかにも人間ぽいなと思う)。慎さんも確か何かを言いかけては場を開くまでのものではなかったし、マークさんモトはずっと黙ってたんじゃないかな。
それぞれが、それぞれ必死に感情の処理をしようとしていた。

 

 

ちなみに先程も言ったが私は舞台はともかくライブの現場に入ると99.9%くらい馬越くんしか見れなくなってしまうので、坂田氏が公演中どういう表情をしていたかはあまり分からない。ただ私がちらりと掠め見た限りは、とても、とても楽しそうだったと思う。

 

 

告白を述べる中で、「ソールドアウト、…ソールドアウトだけがすべてじゃないんだけど」という言葉が出た。18年3月の福岡市民会館、そうしてサンパレスの公演は、満席には届いていなかった。それを苦渋の声で発するのは、フロントマンとしての彼だった。

 

 

私は以前こういったことを言っていて、もちろん皆が確実に変わっていっているのだろうし表に出て分かるものだけで判断すべきことではないんだろうけど、途中から参入してきたオタクにとって坂田氏は、「いちばん変革した人」だった。
ロシア系とも間違えられるような整った顔立ち、バンドのボーカルなどの経歴等々にて「王子」という冠は早いうちからあったにせよ(あるいはものすごいゲラな素とかも出てたにせよ)、映像で見る当初の坂田氏は、少し脇の位置でなよやかにいるような印象の人だった。けれど私が初めて見た10神ACTORの舞台『ピボットターンで振り向いて』の主演は、彼だった。遅くともこのタイミングにおいて以降の彼は、明確なリーダーポジション不在のこのグループにおいて、フロントマンであると上から位置付けられていたように思う。そうして彼が、それを背負おうとしていたとも。

 

 

彼が勝手すぎるとも、残りのメンバーは彼に背負わせるしかないほど力不足であったとも私は決して思わない。けれどもしかしたら、だからなのだ。皆、皆が精一杯で、それでも夢みたいな「ドームを満員にする」という現実にはまだ遠い、遠いとしたら。
それを突破するには痛みを与えるしかなかったのだ。自分と、大好きな人たちと。そうして私たちに。
「覚悟を決めよう」と。

 


最後に皆で歌わせてくださいと彼が言ったのは、10神ACTORのデビュー曲だった。
『Chase Your Dream』。
それまでメンバーのやりとりを息を震わせて見ていた程度だった私が、この日初めて映されたモニターの歌詞を見て、あんまりだと泣いた。あまりにもできすぎている。歌が跳ね返るとはこういうことか。

 

進め!進め! 足跡つけて 何か見える日まで
届け!届け! 描いた通り 君は信じて進めば良い

一人きりで 何も見えず 手探りの闇も 自分信じ 止まらず進めば 明かりが差す

 

 

 

大きな、大きなハレの舞台。それを彼は台無しにしたとも言えるし、一方ではここにしかないタイミングで楔を打ち込むことを選んだのだとも、言える。私にとって彼は、後者なのだ。

 

 


以前のブログで歌詞分析を行なったときに、10神ACTORの曲には「僕」よりも「僕ら/たち」という言葉の方が多く、そうして「君」と交差し道を、力を分かち合うような場面が一貫して述べられている、というようなことを言ったことがある。
坂田隆一郎。「君」が「僕ら」と別れたあなたになってしまうとは思いもしなかった。

 

立とう。皆でドームに。そのために君も僕らも、そうして私たちも、前に旅立つのだから。

 

 

 

 

*1:正式には「さよなら、10神アクター ~発表ましまし☆~」。ましまし☆じゃねぇわボケ

*2:ちなみに以下「坂田氏」と呼んでいるのはいつも通りのことであって、別に今回のことで他人っぽく扱ってるとかではないです。

*3:全国10局ネットとはいえ、それまで冠を放送していた九州4局は福岡を除いて切られた形となった。

*4:これは「意図が掴みかねるな…」というソフトなやつじゃなくて「それをやる側の人の神経が理解不能」というやつですよ。

*5:例えば15日、台風に伴う物販実施判断ツイートを行なったのは、その前日に自ら告知した時間より40分ほど後のことだった。

*6:結局この件については真偽はよく分からない。分からないけれどまずそもそも「発表ましまし☆」とサブタイつけてライブやるのにその時間以前にカウントダウンが完成するHPって意味分かんないですからね。できたHPも結構杜撰だからなお前。