俺たちの町にスクランブル交差点なんてものはなくて、ただ代わりに四方に足を下ろす歩道橋だけが、俺たちが揃いに行く場所だった。
「後ろに相変わらず乗ってるのは1人だけだね」
俺が軽い気持ちでかけた言葉を彼はうっとうしく思ったのか、それまで外にやっていた視線をこちらに気だるそうに向けた。
お酒を飲んだからと、寒いのに足がないからと呼び出されて乗せた車は当時のものではない。小学校の学童帰り、3人まとめて放り込まれた後部座席よりはいくらか狭いだろう。中古だけれど、俺が大学に通うために買った小さな車だ。あのときと同じ道を通って、その通りの隙間からは暗い夜の海が見える。彼は、それを眺めていたのかなと思う。
「…どしたの。疲れ…てはいるか。飲み会の後じゃ」
サークルの送別会だったと聞いている。今11月の時期にやるのは半端な気もしたけれど、他の4年生の就職先も一通り決まってからということだったらしい。
彼の就職は、夏前には決まっていた。
そういう流れにしてはいつもより口数も少なくて、不思議だなと思う。
「…お前はさ。俺って変われると思う?」
ふいに彼が呟いた。質問の深さはよく分からなくて、思ったままを答える。
「どうかなー。きれい好き通り越して潔癖なとこは直んないでしょ。偏食っていうか量食べないのも今から鍛えますって言われてもこわいし、俺とかに当たりが強いのはもうお互いにそういう感じじゃん」
「悪口だらけか」
「悪口のつもりでは言ってないよ。そんなのはさ、人それぞれだし、少なくとも俺は、欠点だとは思ってないよ」
間もなく挟みこまれた言葉にも続けて答える。
「…そもそも、変わるっていうのは、必要ないんじゃない?」
憮然としたままのようで押し黙っているから、俺は言葉を置いた。
彼は左後ろ、少し離れた先の海をもう一度見つめる。通りの向こうに見えては隠れる波間。
サイドブレーキを引いてギッ、と鳴った音に紛れて聞こえたうん、という声は、俺の思い込みだろうか。